1965(昭和40)年夏、谷崎潤一郎は世を去ります。79歳の誕生日を迎えたばかりでした。当時としては珍しいほどの長命だった文豪。晩年と呼ばれる、終わりの時を迎えつつある時期も長いものでしたが、その間にも多くの名作・傑作・話題作を執筆し続けています。
日本が敗戦を迎えた1945年8月、60歳を目の前にした谷崎は、「細雪」下巻の執筆にいそしんでいました。戦時下では「発禁扱い」だった、この生涯の名作の刊行完結が、1948年12月。その時、谷崎は、当時の平均寿命をすでに超えていました。「細雪」は、文豪の戦後への、そしてその豊かな晩年への一里塚だったのです。
「細雪」以降、文豪じしんの現在とも重ね合わせられながら、「老い」や「病(やまい)」、そして「死」の問題が、創作の中心に据えられていきます。その核心に、「性」をはじめ「母恋い」や「女性崇拝」など、多彩なテーマが絡まり合いながら複雑に織り成されていく作品世界は、芳醇でユニークなものでした。死の間際まで続けられた、そのエネルギッシュな執筆活動。それは、作家として人としての人生の集大成であり、死への挑戦の営みでもあったのでしょう。
没後60年の春、文豪谷崎潤一郎の豊穣の晩年、その「死へ挑んだ総括」―「終活」の有り様を跡づけます。
■特別展開催時の記念館入場料は一般600円、65歳以上300円、高校・大学生400円、中学生以下無料となります。
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