文豪谷崎潤一郎の不朽の名作「細雪」。物語の幕開けは、晴れわたる秋の日曜日です。知人宅での音楽会に招待された芦屋の女たちは、化粧やキモノえらびに忙しい。帰りは神戸で夕食と映画。お留守番の女の子へのおみやげは、デパートでの買い物なのでしょう、「御飯の炊ける玩具」でした……。
その秋は、1936年の秋。戦争の暗く速い流れは、すでに日本をのみ込みはじめていました。しかし、「細雪」の一家の暮らしを流れていく時間は、四季の自然の永遠の廻りの中に織り成されながら、穏やかで豊かで美しい。その日常の時の流れは、すべてを破局へと押し流そうとする歴史の奔流のただ中で、また別のリズムを刻んでいるようです。それは、やがて女たちの巣立ちとともにおとずれる、家族の新生への緩やかな歩みなのでした。
今年の秋は、「細雪」開幕から90年。作品に描かれた中産市民的で女性たちの賑わい花やかな日常を今に甦えらせるのは、もはや至難のことなのかもしれません。しかし一方、この物語そのものでもある一家の日常の時の流れが浮き彫りにしていくのは、自然のつむぎ出す永遠の波動と共鳴しながら、揺れ動く世の中や歴史の悲劇のむこうへとみずからの歩みを続ける市民家族の、健気な中にも誇り高い姿でした。そして、まさにそれこそが、「細雪」の日常の魅力の核心であり、今こそ貴く後の世にも受け継がれていくべき一つの理想でもあるのではないか……。そんな想いにも誘われる「90年の物語」、「細雪」の生命力の秘密に迫ります。
■特別展開催時の記念館入場料は一般600円、65歳以上300円、高校・大学生400円、中学生以下無料となります。
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