谷崎潤一郎記念館「俳句講座」  

兼題 寒牡丹
席題 寒鯉

 

黒川悦子選

日当れば茎のあらはに寒牡丹        相坂よしの

寒鯉や人と日差しへ相寄りぬ

蹲踞の流れの先きは寒の鯉          井上陽子

人恋うて陽を恋うて寄る寒の鯉

苞解けて赤少し見し寒牡丹         入谷千恵子

寒鯉の口を大きく日差しのむ

風動き色の零るる寒牡丹          河野ひろみ

藁の下か弱き王女寒牡丹

寒牡丹耐へ忍びなほ美しく         坂本英司

寒鯉の動き出したる波模様

藁囲ひより出て咲きし寒牡丹        坂本果奈美

寒鯉や日差しを受けて舞ひ泳ぐ

わらづとの窓に陽を恋ふ寒牡丹       桜田育子

花片みな風に震へる寒牡丹

寒牡丹愛せし母と見にゆかん        佐藤千枝子

寒鯉や慈しまれてこの館に

菰にゐて孤独にあらず寒牡丹        玉手のり子

春待つや青美しき不折の画

玻璃越しに父に見せむと寒牡丹       土井純子

寒鯉の向き変へるとき光りをり

日差し得て色動き出す寒牡丹        深尾真理子

優雅さの中にけなげさ寒牡丹

稲わらのマント羽織し寒牡丹        福岡秀和

寒鯉といへど日だまり求めけり

八幡宮詣賑はふ寒牡丹           松永祝子

念仏を遠くに置くや寒牡丹

紅さして箱入りむすめ冬牡丹        安永文子

父と酌み寒鯉の味父の声

  

         選者吟

            一客に剪りたる庭の寒牡丹

            人声に寒鯉泳ぎはじめけり